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横浜地方裁判所 昭和47年(ワ)123号 判決 1977年2月15日

昭和四六年(ワ)第三七七号・

平間仁子

昭和四七年(ワ)第一二三号事件原告

昭和四六年(ワ)第三七七号事件被告

浜田一郎

昭和四七年(ワ)第一二三号事件被告

浜田けい子

主文

一  被告らは原告に対し各自金七三七万五五四五円及びこれに対する昭和四五年二月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  主文第一、二項同旨の判決

(二)  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

(一)  原告の請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

原告は、次の交通事故(以下、本件事故という。)によつて傷害を受けた。

1 発生時 昭和四五年二月二五日午後七時三〇分頃

2 発生地 埼玉県草加市新善町一三三番地先草加バイパス交差点(以下、本件交差点という。)内

3 加害車 軽貨物自動車(六足立ち六一六一号)

運転者 被告浜田一郎

4 被害車 普通乗用自動車(相模五ぬ二一八二号)

運転者 訴外平間克彦(以下、克彦という。)

被害者 原告(同乗中)

5 態様 草加バイパスを南進中本件交差点に差掛つた被害車の右前部の前照燈、右前部バンパー付近に、交差道路西側から本件交差点において草加バイパスを横断しようとした加害車がその左前部の前照燈付近を激突させ、被害車を草加バイパス東側に設置されているガードレールに衝突させた。

6 原告の受傷部位、程度

原告は、本件事故により、顔面多発切創、右眼硝子片残留創、頸椎捻挫、頭部、顔面打撲等の傷害を受け、その治療のため、昭和四五年二月二五日三浦外科医院に入院し、同月二六日から同年四月二二日まで大宮赤十字病院に入院したが、原告住所地に近い病院に転院のため退院し、同月二八日平塚共済病院で受診、直ちに入院の必要ありと診断されたが病床の空きを待つため同年五月三一日まで同病院に通院(通院実日数五日)しながら自宅で安静治療し、同年六月一日から同年八月三日まで同病院に入院し、同月七日から同年一〇月一五日まで整復師伊藤幸医院に通院(通院実日数五三日)し、同月一六日から同年一一月七日まで総合新川橋病院に通院(通院実日数五日)した。

7 原告の後遺症

原告は、右傷害のため、右眼に、角膜裂創による癒着性白斑に基く遠視性乱視(裸眼視力〇・〇五、矯正視力〇・五)の後遺症を残したが、これは自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)施行令別表等級の九級二号に該当する。

(二)  責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

1 被告浜田一郎は、事故発生につき、次のような過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任がある。

即ち、被告浜田一郎は、公安委員会の運転免許を受けないで、かつ、弱視のため夜間は極度に視力が落ちるにも拘らずサングラスをかけて加害車を運転して幅員五・九メートルの道路を進行し、本件交差点において西側から幹線道路である草加バイパスを横断するに際し、運転者としては交差点の手前で一時停止して草加バイパス上下線の交通の安全を確認して交差点に進入し、さらに草加バイパス中央分離帯の手前で一時停止して左方上り線の進行車両の安全を確認したうえ横断する等して危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、右方下り線に進行車両のないのに気を許し、左方上り線の安全を確認せず漫然と中央分離帯を越えて上り線に進入した過失により加害車左前部を被害車右前部に衝突させて本件事故を発生させたものである。

2 被告浜田けい子は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条による責任がある。

(三)  原告の損害

1 治療費等 金四六万二八一八円

(1) 治療費 金三一万〇四三三円

イ 大宮赤十字病院分 金一万五六六〇円

ロ 平塚共済病院分 金二六万〇〇三三円

ハ 整復師伊藤幸医院分 金二万二四〇〇円

ニ 総合新川橋病院分 金一万二三四〇円

(2) 診断書代 金四四〇〇円

イ 三浦外科病院分 金八〇〇円

ロ 大宮赤十字病院分 金一五〇〇円

ハ 平塚共済病院分 金一五〇〇円

ニ 整復師伊藤幸医院分 金三〇〇円

ホ 総合新川橋病院分 金三〇〇円

(3) 入院雑費 金八万円

(一六〇日間―一日当り金五〇〇円)

(4) 通院交通費 金一万六九六〇円

イ 平塚共済病院分 金七八〇〇円

ロ 整復師伊藤幸医院分 金三一八〇円

ハ 大宮赤十字病院分 金二二八〇円

ニ 総合新川橋病院分 金三七〇〇円

(5) 入院付添看護費 金五万一〇〇〇円

(三浦外科医院、大宮赤十字病院入院中、夫克彦の付添看護を受けた三四日間―一日当り金一五〇〇円)

2 休業損害 金一四万八六八一円

原告は、本件事故当時、寒川町農業協同組合に勤務していたが、前記傷害及びその治療のため長期欠勤したため給与、手当等を減額され、別表のとおり合計金一四万八六八一円の損害を被つた。

3 逸失利益 金三八〇万四〇四六円

原告は、前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪失した。その額は金三八〇万四〇四六円と算定される。

(事故時) 三〇歳

(稼働可能年数) 三三年

(労働能力低下の存すべき期間) 終身

(年収) 金五六万六五八〇円

(労働能力喪失率) 三五パーセント

(年五分の中間利息控除) ホフマン式年別計算による。

4 慰藉料 金二六六万円

原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情に鑑み金二六六万円が相当である。

5 損害の填補

原告は、自賠責保険から金五〇万円の支払を受け、これを本件損害賠償債権に充当した。

6 弁護士費用 金八〇万円

以上により原告は、金六五七万五五四五円を被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らが任意に弁済をしないので、弁護士である本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、東京弁護士会所定の報酬範囲内で、着手金及び謝金として金八〇万円を本件事件完結の日に支払うことを約した。

(四)  結論

よつて、原告は被告らに対し、各自金七三七万五五四五円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和四五年二月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

請求原因(一)1ないし4の事実はいずれも認める。同(一)5の事実のうち、本件交差点において草加バイパスを南進中の被害車と交差道路西側から進行した加害車とが衝突したことは認め、その余は否認する。同(一)6の事実のうち原告が加害車と被害車との衝突により負傷したこと、原告主張の期間三浦外科医院及び大宮赤十字病院に入院したことは認め、その余は知らない。同(一)7の事実は争う。同(二)1の事実のうち、被告浜田一郎が無免許で加害車を運転したことは認め、その余は否認する。同(二)2のうち被告浜田けい子が加害車を所有していることは認め、その余は争う。同(三)1(1)ないし(4)、2、6の事実はいずれも知らない。同(三)1(5)の事実のうち、克彦が原告の夫であることは認め、その余は知らない。同(三)3、4の事実はいずれも争う。同(三)5の事実は認める。

三  被告らの主張

(一)  本件事故の態様

被告浜田一郎は、加害車を運転し、本件交差点において右折し草加バイパスを南進すべく本件交差点に西方から差掛つたのであるが、交差点手前において一時停止し、草加バイパス下り線を北進する貨物自動車数台の通過を待つた後、上下線の安全を確認し、右折の方向指示器を作動させ徐行して交差点に入つたところ、上り線の右側車線を南進する大型貨物自動車を認め、中央分離帯付近で一時停止した。しかし、大型貨物自動車は交差点手前で停止したため、被告浜田一郎は上り線に他の車両のないことを確認し、徐行しながら右折を開始し上り線左側車線に入り右折を完了しようとしたとき、先行の右大型貨物自動車の停止を無視し、前方の安全を確認することなく高速度で加害車の左斜め後方から進行してきた被害車がその右前照燈付近を加害車左側扉付近に衝突させたものである。

(二)  免責

右のとおりであつて、被告浜田一郎には運転上の過失はなく、本件事故発生はひとえに克彦の過失によるものである。また、被告浜田一郎は無免許とはいえ運転免許を受けたものと変りない運転技術を有しており、無免許の事実と本件事故との間には因果関係はないし、加害車には本件事故と因果関係のある構造上の欠陥や機能の障害もなかつたのであるから、被告浜田けい子は自賠法三条但書により免責される。

(三)  過失相殺

かりに然らずとするも本件事故発生については克彦の右過失も寄与しているところ、克彦は原告の夫であるから公平の原則に照らし克彦の右過失は被害者側の過失として、原告の賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

(四)  損害の填補

被告浜田一郎は本件事故発生後、賠償の内金として、大宮赤十字病院へ原告の本件事故による入院治療費金三三万五〇四〇円、平塚共済病院へ同金二三万二七一二円を支払つているので、右額は控除さるべきである。

四  被告らの主張に対する認否

被告らの主張(一)の事実のうち、本件交差点へ西側から差掛つた加害者と草加バイパスを南進中の被害車が衝突したことは認め、その余は否認する。同(二)のうち、被告浜田一郎に過失がなく本件事故発生はひとえに克彦の過失によるとの事実は否認し、被告浜田けい子が自賠法三条但書により免責されるとの主張は争う。同(三)の事実のうち克彦が原告の夫であることは認め、その余は争う。同(四)の各支払の事実は認める。原告が本訴で請求している大宮赤十字病院分の治療費は被告浜田一郎が支払つた分以外の治療費である。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因(一)1ないし4の事実及び本件交差点において草加バイパスを南進中の被害車と交差道路西側から進行した加害車とが衝突し、右衝突により原告が負傷した事実は当事者間に争いがない。

二  被告浜田一郎の責任

(一)  いずれも原本の存在と成立につき争いのない乙第一、第二号証、いずれも成立につき争いのない甲第四〇ないし第四四号証、第四六号証の一(一部)、証人吉井義雄の証言によつて成立を認める乙第九号証(一部)、同証言(一部)、原告平間克彦、被告浜田一郎各本人尋問の結果(各一部)によれば、本件事故の態様は次のとおりである。

1  本件事故現場は、南(東京都方面)北(越谷市方面)に延びる歩車道の区別があり中央分離帯によつて上下線が仕切られ上下線とも幅員約八メートルで二車線を有する舗装された草加バイパスと草加バイパスの東側において幅員約七・九メートル、西側において幅員約五・九メートルの東西に延びる道路とが交差する見とおしのよい、信号機の設置されていない交差点である。草加バイパスは本件交差点付近において直線、平坦で約一三・六メートルにわたり中央分離帯が切れており、駐車禁止の規制がなされている。本件事故当時は、天候は晴で路面は乾燥しており草加バイパスは上下線とも車両交通量が多かつた。

2  克彦は、原告を同乗させて被害車を運転し(この事実は当事者間に争いがない。)、宮城県から神奈川県の自宅へ帰るため草加バイパス上り線の左側車線を進行中、本件交差点手前で大型貨物自動車に前後を挾まれる形になつたため、右側車線に出て時速約六〇キロメートルの速度で走行中、本件交差点に差掛つたが、当時、先行車はなく、また、本件事故前四回程草加バイパスを通行し本件交差点を通過していたが、同所が交差点であることに気づいていなかつた。

一方、被告浜田一郎は、太平洋戦争当時軍隊で自動車運転技術を習得したものの、公安委員会から自動車運転免許を受けたことはなかつたものであるが(自動車運転免許を受けていない事実は当事者間に争いがない。)、本件事故当日は、紫外線よけの眼鏡をかけて加害車を運転し、草加市内の親戚の家へ向う途中本件交差点に差掛り、同所において交差道路西側から草加バイパス上り線へ右折進行するため(交差道路西側から進行したことは当事者間に争いがない。)、交差点手前で一旦停止し、草加バイパス下り線を右方から走行してきた大型貨物自動車三台の通過待ちをした後、下り線に車両のないのを確認し、左方上り線を見ると自動車の前照燈が見えたが右折可能と判断し右折の方向指示器を作動させ徐行して右折を開始し、下り線を横断し交差点中央付近に至つたが、同所で左方上り線の安全を確認しなかつたため被害車の接近に気づかず、そのまま右転把して上り線に進入したため、車体がほぼ上り線右側車線に入り了つた所で加害車左側部に被害車右前部が衝突するに至つたものである(本件交差点において加害車と被害車とが衝突した事実は当事者間に争いがない。)。

この間、克彦は、本件交差点に差掛つた際、対向下り線を走行する三台の大型貨物自動車とすれちがつた後、自車の約一三・五メートル右前方本件交差点内下り線中央付近を横断中の加害車を発見したが、加害車が上り線に進行してくるとは考えなかつたため、何ら制動、転把等の措置をとることなくそのまま進行して、上り線右側車線に入り込もうとした加害車と衝突したものである。

以上のとおり認められ、いずれも成立につき争いのない甲第四六号証の二、乙第一〇号証、前掲甲第四六号証の一、同乙第九号証、証人吉井義雄の証言、原告平間克彦、被告浜田一郎各本人尋問の結果中のいずれも右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしこれを採用せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  以上の事実によれば、本件事故は信号機の設置されていない本件交差点において明らかに幅員の広い道路である草加バイパスの上り線へ右折しようとする被告浜田一郎が草加バイパス上り線の安全確認を怠つた過失により発生したことが明らかであるから、被告浜田一郎は、不法行為者として民法七〇九条により本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  被告浜田けい子の責任

(一)  加害車が被告浜田けい子の所有であることは当事者間に争いがなく、被告浜田けい子が加害車の運行供用者であることを否定するに足りる特段の事情については何らの主張、立証もないから、同被告は加害車の運行供用者というべきである。

(二)  被告浜田けい子は自賠法三条但書による免責を主張するが、加害車運転者である被告浜田一郎に前記のとおり過失が認められる以上、その余の点につき判断するまでもなく右免責の主張は理由がない。従つて、被告浜田けい子は加害車の運行供用者として自賠法三条本文により本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

四  過失相殺

しかしながら二項(一)の事実によれば、被害車運転者である克彦にも被害車を運転中、本件交差点に差掛つたのであるから交差道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、同所が交差点であるのに気づかず、このため交差道路の安全を確認せず、加害車の発見が遅れ、その発見後も加害車が自車進路前方に進行することを意識せず、漫然進行したため、何らの接触回避行動をとらずに加害車と衝突するに至つた過失が認められ、右過失が本件事故発生に寄与していることは明らかである。

また、克彦が原告の夫であることは当事者間に争いがなく、従つて、本件事故は夫が妻を同乗させて自動車を運転中、夫の過失と第三者(被告浜田一郎)の過失が競合して妻に被害が発生したというものである。ところで、過失相殺の基本理念である公平の原則に照らせば、民法七二二条二項にいう被害者の過失とは、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失(いわゆる被害者側の過失)を包含するものと解されるから、原告と克彦との関係が特段の事情にある等何ら主張、立証のない本件においては、克彦の過失を被害者側の過失として原告の損害額算定につき斟酌すべきものである。そして、被害者側の右過失を最大限に斟酌しても、被告らは原告に対し、なお相当の損害のうち少くとも七〇パーセントに当る金員を賠償すべきものとするのが相当である。

五  原告の損害

(一)  いずれもその作成の方式及び趣旨から真正に成立したものと認められる甲第二ないし第四号証、第九ないし第一二号証、第一四、第一五号証、第一七ないし第二〇号証、第二三号証、いずれも成立に争いのない甲第四八、第四九(一部)号証、原告平間仁子本人尋問の結果(第一、二回)によれば、治療経過として、原告が、本件事故のため顔面多発切創、右角膜裂創、頸椎捻挫、頭部、顔面打撲等の傷害を受け、その治療のため、昭和四五年二月二五日三浦外科医院に入院して主に外科的治療を受け、同月二六日から同年四月二二日まで大宮赤十字病院に入院して主に眼の治療を受け(三浦外科医院、大宮赤十字病院に右の期間入院したことは当事者間に争いがない。)、次に平塚共済病院に同月二八日から同年五月三一日まで通院、同年六月一日から同年八月三日までは入院して主に頸椎捻挫の治療を受け、同月七日から同年一〇月一五日まで柔道整復師伊藤幸により頸椎捻挫の施術を受け、同月一六日から同月二一日まで総合新川橋病院に通院して眼の治療を受けた事実及び後遺障害として、原告が、昭和五一年一月二七日大宮赤十字病院において昭和四五年四月二〇日症状の固定した右角膜裂創による後遺症として右眼の裸眼視力〇・一、矯正不能で回復の見込みなしとの診断を受け、また、昭和五一年二月九日平塚共済病院において頸椎捻挫による後遺症として、頸椎の運動領域が前後屈六五度、左右屈三〇度、左右回旋七〇度に制限される回復の見込みのない運動障害と、第五、第六頸椎間狭少変形、骨棘形成との診断を受けた事実が認められる。前掲甲第四九号証中の右認定に反する診断日の記載は原告平間仁子本人尋問の結果(第二回)に照らしこれを採用することができず、被告浜田一郎本人尋問の結果中の右認定に反する供述部分は前掲各証拠に照らしこれを採用することができない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。以上の事実からすれば、原告は頸椎捻挫に対する外科的療法の終了した昭和四五年一〇月一五日から、本件事故による後遺症として少くとも自賠法施行令別表九級に該当する後遺症のためその労働能力を三五パーセント失うに至つたものと認めることができ、右状態は今後なお持続するものと認められる。

(二)  治療費等

1  治療費及び診断書代

前掲甲第一一号証、同第一八号証、同第二〇号証、いずれもその作成の方式及び趣旨から真正に成立したものと認められる甲第五号証、第一三号証、第一六号証、第二四、第二五号証、第二七号証、成立に争いのない乙第六号証によれば、原告は前記傷害の前記治療及びその証明のため、治療費及び診断書代として、三浦外科医院に金八〇〇円、大宮赤十字病院に金三四万七六五〇円、平塚共済病院に金二六万一五三三円、柔道整復師伊藤幸に金二万二四〇〇円、総合新川橋病院に金五六四〇円を負担し、同額の損害を被つたものと認められ、これを超える損害を被つたと認めるに足りる証拠はない。従つて、前記過失相殺により被告らの負担すべき損害額は右金員の七〇パーセントである金四四万六六一六円となる。

2  入院雑費

原告の前記入院当時、前記の程度の傷害による入院の場合、入院のため一日金四〇〇円を下らない雑費を要したことは公知の事実であるから、右合計一二一日間の入院により原告は、同額の割合により算出した金四万八四〇〇円の入院雑費の支出を要し、同額の損害を被つたと認められ、これを超える損害を被つたと認めるに足りる証拠はない。従つて、前記過失相殺により被告らの負担すべき損害額は右金員の七〇パーセントである金三万三八八〇円となる。

3  通院交通費

通院交通費の額についてはこれを確定するに足りる証拠がないから、この費用を損害として請求することはできない。

4  入院付添看護費

原告は三浦外科医院及び大宮赤十字病院入院中付添看護を必要としたと主張する。しかし、三浦外科医院入院中付添看護を必要とした事実を認めるに足りる証拠はなく、また大宮赤十字病院入院中に関しても、原告平間克彦、原告平間仁子(第一回)各本人尋問の結果中には右主張に副う供述部分もあるが、右は前掲甲第四八号証に照らしこれを採用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。従つて、入院付添看護費の請求は理由がない。

(三)  休業損害

原告平間仁子本人尋問の結果(第一、二回)及び同結果(第一回)によつて成立を認める甲第二九号証によれば、原告は本件事故当時寒川町農業協同組合に勤務していたが前記傷害の治療のため昭和四五年二月二六日から同年一〇月一五日頃まで欠勤を余儀なくされ、このため別表記載のとおり給与及び諸手当合計金一四万八六八一円を減額され、同額の休業損害を被つた事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。従つて、前記過失相殺により被告らの負担すべき損害額は右金員の七〇パーセントである金一〇万四〇七六円となる。

(四)  逸失利益

原告が、昭和四五年一〇月一五日以降、本件事故による後遺症のため、労働能力を三五パーセント失い、この状態が今後も持続すると認められることは前記のとおりである。

前掲甲第三号証、原告平間克彦、原告平間仁子(第一、二回)各本人尋問の結果によれば、原告は昭和一五年一月一三日生れで本件事故前は健康であり、昭和三九年頃克彦と婚姻し(克彦が原告の夫であることは当事者間に争いがない。)、本件事故当時は前記のとおり寒川町農業協同組合に勤務し、タイプ等の一般事務職に従事すると同時に家事に従事していたが、本件事故後は、右組合に勤務しているものの前記後遺症のため従前の職種に就くことが困難となり、数度の配転を受け、現在は売店の売り子として勤務していること、家事においても右眼の視力が落ちたため距離感がつかめず茶碗を落とす等の支障がでていること、昭和五一年七月二〇日現在、勤務先から本俸金八万余円、手当金一万余円の月給と年間本俸の七か月分の期末手当等の手当を得ているが、同期に右組合に入つた者に比し手当等で月額約金一万円少ない状態にあること、等が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の事実に照らせば、原告は、現在一応事故前と同じ職場に勤務し克彦との婚姻生活を送つているとはいえ、その内容において諸種の制約を受けており、これは財産上得べかりし利益の損失として評価さるべきものである。そして右損失は本件事故がなかつた場合における原告の得べかりし収入(家事労働分を含む。)に労働能力の喪失割合を乗じたものと評価するのが相当であり、原告は後遺症固定時満三〇歳九か月であるからあと三六年間は労働可能なものとみるのが相当である。また、現時点での原告の本件事故がなかつた場合の収入は、勤務先からは、前記のとおりの収入である月給として本俸金八万円、諸手当金一万円、期末手当等として年間本俸の七か月分の金員を下らないものであることが明らかであり、家事労働分が年額金二四万円を下らないことは家政婦の給与等に比し明らかであるから、これらを基礎とし、年五分の割合による中間利息をライプニツツ式年別計算法により控除して原告の逸失利益を計算すると、次の算式のとおり、金一〇八八万七七九四円となる。従つて、前記過失相殺により被告らの負担すべき損害額は右金員の七〇パーセントである金七六二万一四五五円となる。

{(80,000円+10,000円)×12+(80,000円×7)+240,000円}×0.35×16.5468=10,887,794円

(五)  慰藉料

原告の傷害及び後遺症の部位、程度その他本件口頭弁論に顕われた諸般の事情を考慮し、さらに、克彦の前記過失を斟酌すると、原告の慰藉料としては金二〇〇万円が相当である。

(六)  損害の填補

原告が自賠責保険から金五〇万円を受領したことは、その自ら認めるところであり、被告浜田一郎が原告の治療費として合計金五六万七七五二円を支払つた事実は当事者間に争いがないところ、右治療費の弁済額が前記被告らの賠償すべき治療費の損害額を超えることは明らかである。そのような場合には、責任の有無にかかわらず弁済者においてある費目の損害を填補するというべき特段の事情のないかぎり、右超過額は、加害者の負担するその他の費目の損害に充当されると解するのが相当である。従つて、右特段の事情につき何ら主張、立証のない本件においては、被告浜田一郎の右弁済金は自賠責保険金と共にすべて原告の前記損害額に填補されたというべきである。

(七)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、被告らにおいて本件損害賠償の任意の弁済をしないため、原告が原告訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、相当額の費用、報酬の支払を約したことが認められるところ、本件訴訟の経緯、認容額等に鑑みると、金八〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害として被告らの負担すべきものであるとみるのが相当である。

六  以上のとおり、原告は被告らに対し、各自合計金九九三万八二七五円の損害賠償及びこれに対する本件事故の日である昭和四五年二月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求しうるが、原告の被告らに対する本訴請求は、右金員を下廻ることが明らかであり、かつ、右請求は、同一事故によつて生じた財産的損害及び精神的損害の賠償請求として、各損害費目間の流用を認めるのが相当と解されるから、結局、原告の被告らに対する本訴請求はすべて理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高瀬秀雄 江田五月 清水篤)

別表

<省略>

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